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教授
前田 佳均

半導体物性工学、ナノ構造物性、光物性

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研究紹介

持続可能な光エレクトロニクスを目指したあたらしい半導体と関連物質の研究

光通信(インターネットなど)を支える光エレクトロニクスデバイスには,インジウムなどに代表される希少元素,ヒ素などの環境負荷が大きく生体為害性のある元素が多用されています.これは,光通信の根幹には資源枯渇の危機,環境問題が常に存在し,その持続可能性が乏しいことを意味します.本研究室では,こうした問題解決を目指し,持続可能な光エレクトロニクスを目指したあたらしい半導体材料創製の研究を1997年に開始し,現在に至っています.光通信用素子に用いられるインジウム・ガリウム・ヒ素など化合物半導体を鉄シリサイド(斜方晶β-FeSi2)に代替することが目標になります.鉄シリサイドは資源が豊富で,環境への負荷の少ない元素群(Elements of hope)からなるためにシリサイド環境半導体とも呼ばれています.
物性面でも鉄シリサイドは興味深い新しい半導体といえます.鉄原子のd電子が物性を支配し,金属相格子(蛍石構造γ-FeSi2)がひずむことによってバンドギャップが発生し半導体化したヤン・テラー(Jahn-Tellar)効果型半導体と考えられています.それゆえに,従来のsp3系の半導体とは違った物性やその応用が期待されています.特に結晶サイズが数ナノm程度のナノ結晶に閉じ込められた励起子や不純物添加による束縛励起子による顕著な発光増強など半導体物理学上も興味深い現象がわれわれの研究で見出されています.
さらに鉄シリサイドは,シリコン太陽電池では透過して利用できなかった1.2μm以上の長波長の赤外太陽光をエネルギーに変換でき,太陽電池の高効率化が期待できます.
鉄-シリコン系材料は,資源的にも環境的にも持続可能で,また成熟したシリコンプロセスを利用できるなど大きな利点があります.β-FeSi2のほかにも有用な化合物があります.B20-FeSiはd電子近藤絶縁体(d電子相関によって金属-絶縁体相転移を示す),DO3-Fe3Siはホイスラー合金強磁性体としてそれぞれスピントロニクス(電子のスピン状態とその変化を利用したエレクトロニクス)への応用を目指した研究も行っています.現在進行している具体的な研究テーマは以下の通りです.

研究テーマ

  • シリサイド半導体ナノ結晶の形成と赤外発光増強に関する研究(下図参照)
  • 赤外増感シリサイド半導体タンデム型太陽電池の研究
  • イオン散乱法によるホイスラー合金/半導体へテロエピタキシャル界面の評価

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研究室紹介

本研究室は,1995年から大阪府立大学,2003年から京都大学,そして2012年11月に本学に異動しました.太陽電池の研究では,湿式太陽電池を研究している古川研究室,安田研究室とそれぞれの特長をいかした研究を連携して進めています.シリサイド系半導体の研究分野では,応用物理学会を中心に研究の成果,研究者の育成,学会・研究会の運営,論文の企画編集出版など国内外で指導的な役割を果してきました.本研究室の最大の特徴は,学外との共同研究が頻繁なことです.日本原子力研究開発機構・先端基礎研究センターとは分子スピントロニクス用の新材料の創製,イオン散乱による磁性体/半導体スピン注入界面の評価などの共同研究を行っています.他にも研究の進捗に応じて共同研究を展開します.また,3年毎にシリサイド系半導体国際会議(APAC-SILICIDE)を国内外の関連研究室と協力して開催しています.これは,研究室の学生・院生が発表だけでなく運営にも関わり,国際的な視野の育成に役立っています.

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